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2019年3月29日発行 Vol.74

  内 容 (PDFにて全文閲覧できます。)
 
掲載論文: 1. 役員報酬規制
  2.英国の民間健康保険と高齢者ケアサービス
〜NHSとSocial Care が包含されている英国のヘルスケアシステムの特徴〜
  3.グローバルな保険業の状況とロンドンマーケットの地位を維持する取組み
  4. 英国で取組みが進む社会的処方

 
役員報酬規制(PDF0.8MB)
   
 

= 要 約 =
執筆者: 取締役 隅山 正敏

   
 

T.はじめに
金融審議会が役員報酬の個人別開示の見直しに言及した4 月後にゴーン氏が開示義務違反で逮捕された。錯綜した状況を紐解くべく歴史的経緯・海外比較の観点から問題を整理し、今後の対応を検討する。

U.わが国における規制の現状
わが国では会社法、金融商品取引法、上場規則という3 つの開示体系が入り混じりながらも報酬額に偏った開示を求めてきた。その中で2019年、役員報酬方針の記載事項の拡充など、規制内容を国際水準に一気に引き上げる新たな動きが生じた。

V.米国における規制
報酬規制の主対象は取締役でなく執行役である。報酬額の個人別開示は80 年超の歴史を有し、1980 年代には「上位5名」とされている。役員報酬に係る不適切事案が度々発生し、規制の進化に繋がっている。近年は報酬体系の設計・運用に関する会社の考え方(報酬方針)の開示を重視している。

W.英国における規制
報酬規制の主対象は執行役でなく取締役である。報酬額の個人別開示は50 年超の歴史を有し、1995 年に取締役全員の個人別開示に踏み切った。英国でも不適切事案の発生を受けて規制を進化させており、報酬方針の開示を重視するようになっている。

X.わが国における規制の変遷
わが国では一貫して取締役報酬が論点になっている。報酬額の個人別開示は1953 年に廃止され、2011 年に復活された。不適切事案の発生がない中、国際的な整合性の観点で規制内容を決めてきた。報酬方針も「決定」方針に限られるものの、2019 年に「運用実績」の開示が追加された。

Y.役員報酬規制を巡る論点
海外比較に際して次の点を押さえておく必要がある。
①立法事実:米英では不適切事案の発生が規制の進化に繋がり規制の理解にも貢献している。開示により得られる報酬データが実証研究を可能にし、規制の検討に深みをもたらしている。
②規制の対象者:米国では取締役+執行役、日英では取締役のみが開示対象である。米英では取締役報酬と執行役報酬が明確に区分されているが、日本での取扱いは明確でない場合が多い。
③候補者の範囲:米英では外部招聘が報酬高騰を招いて開示規制が強化されている。日本では内部登用が中心で報酬高騰がない代わりに社外取締役による候補者選定を難しくしている。
④報酬設計思想:米英では外部招聘が競争力のある報酬体系への進化を招いている。日本では報酬体系の見直しが進まず、従業員の賃金体系の延長の域を脱していない。

Z.金融機関に対する上乗せ規制
役員報酬開示について金融機関に限定した上乗せ規制が存在する。利益追求にアグレッシブな株主に寄り添い過ぎる役員報酬体系(インセンティブ)を採用すると、債権者(預金者・保険契約者)の保護に欠ける事態を招きかねないためである。金融機関は役員報酬体系を設計・運用する際に留意すべきである。

[.おわりに
わが国の役員報酬開示規制は、長年に亘り報酬額の開示に偏った議論がなされ、報酬額の適切性を判断する関連情報の開示を検討してこなかった。2019 年開示府令改正は、初めてバランスのとれた開示制度を志向するものとなっており、今回紹介した海外事例を参考として、役員報酬体系の戦略的な検討が進むことを期待したい。

   
 

英国の民間健康保険と高齢者ケアサービス
〜NHSとSocial Care が包含されている英国のヘルスケアシステムの特徴〜(PDF0.8MB)

   
 

= 要 約 =
執筆者: ファカルティフェロー 小林 篤

   
 

T.はじめに
英国には全住民を対象として医療サービスを提供する公的医療保障制度であるNHS が存在する。NHS は1948 年に創設され、70 年余の歴史を経て今日ではNHS 無しの英国を考えることができないほど定着している。NHS の存在という事業環境で民間健康保険はどのような役割を果たしているか、NHS と複雑な関係を有する公的な高齢者ケアサービス提供システムが存在する事業環境で民間健康保険者はどのような事業を展開しているかという二つのテーマを取り上げる。

U.NHS が存在する事業環境と民間健康保険の役割
英国の民間健康保険には、PMI とHCP の2 種類がある。前者は入院・手術を伴う特定の病気と深刻な健康状態を補償し、後者は理学療法や歯科・視力に関するケアの費用を対象として金銭給付をしている。PMIが主流であるが、両者を組み合わせて利用することが多い。PMI の加入動機には、三つある。第一は、医療・保健へのタイムリーな接近である。NHS のサービスを受けるには手術がすぐ実行されずに順番がくるまで待機を余儀なくされるという問題がある。PMI は、専門医への迅速な紹介、病院への迅速な入院、自分の都合にあわせた治療を可能にする。第二に、先端医療など医療・保健サービスに関する選択が可能なる。第三に、高品質の私的診療所や病院宿泊施設の利用ができ、広い専用病室でのプライバシー保護、テレビなどの家庭的なアメニティおよび快適さ・清潔さなどを享受できることである。

V.NHS と公的高齢者ケアサービス提供システムとの関係
英国では、公的保険ではなく地方自治体から公的な高齢者ケアサービスが提供される。このサービスを受けるには、自宅など自己の資産に関する公的な査定(ミーンズテスト)を受ける必要がある。富裕層には、ミーンズテストがある公的サービスに頼らないプライベートの有料老人ホームを利用する方法がある。中産階級には、公的サービスに頼らないプライベートの有料老人ホームを利用する方法もあるが、ミーンズテストを受け自己負担をしてサービスを受ける方法もある。低所得者は、ミーンズテストを受け自己負担は免除され無料となる。一方、NHS からも同様のサービスが提供されるシステムとなっており、両者のサービスの関係は複雑である。このため、サービス利用者が仕組みを理解し、自分の受給できるサービスを予測することは極めて困難になっている。

W.民間健康保険者の高齢者ケアに関する事業展開
大手の民間健康保険者は、古くは健康保険を取り扱う事業形態であったが、今日では保険金支払だけの事業形態ではなく各種のサービス提供をしている事業形態に進化している。健康保険では診療所、病院を運営しサービスを提供する体制を有し、歯科保険では実際に歯科治療のサービスを提供する体制となっている例もある。民間健康保険者は、高齢者ケアに関する保険商品を販売するとともに高齢者向けのケアホームを運営しサービスを提供していた。しかし、地方自治体による資産査定に基づく負担額の算定は複雑で予測も困難であるとの問題も影響して、近年高齢者ケアに関する保険商品の販売が不振となった。このため、民間健康保険者のなかには、高齢者ケアに関する保険商品の販売を停止した健康保険者も出ている。

X.NHS とSocial Care が包含されている英国のヘルスケアシステムの特徴
英国および日本などの先進国は、疾病構造の変化が起き、病院へ入院し完治することが多い疾患のウェイトが低下し、完治することが無い慢性疾患(例えば糖尿病など)のウェイトが高まってきたというシフトが生じている。英国では、この疾病構造の変化に応じて、NHS とSocial Care が包含されているヘルスケアシステムとなるように改革が進められてきた。しかし、英国ではサービス提供の財源がNHS と地方自治体に分断されているためサービス提供が円滑に機能しない面がある。また、ミーンズテストを必須とすることは、複雑な決定プロセスを生み出す要因となっている。かつては、介護サービスに関する保険商品の販売を行っていた大手健康保険者が販売停止としていることは、その反映であると考えられる。このほか、英国における高齢者ケア(Elderly care)システムの特徴として、家族・友人そして隣人などのinformal carer の重視とボランティアでサービスを提供するcharity 組織の存在感の大きさがある。

   
 

グローバルな保険業の状況とロンドンマーケットの地位を維持する取組み(PDF0.8MB)

   
 

= 要 約 =
執筆者: 主任研究員 海老ア 美由紀

   
 

T.はじめに
本稿では、損害保険の老舗としての伝統を誇り、特殊なリスクの保険引受けにおいて国際的に特別な地位にあるロンドンマーケットとそのプレーヤーが、環境変化によりどのような課題を抱え、どのようにその地位を維持していこうとしているのかを探る。

U.ロンドンマーケットにおける特殊なリスクの引受け
ロンドンマーケットは世界中から特殊なリスクが集まる特異なマーケットであり、複数の保険者が少しずつリスクをシェアするしくみを使い特殊なリスクを引き受けている。収益性の高い特殊なリスクに対する資本提供者がロンドンには集まっており、特殊なリスクを専門とするアンダーライターがリスクを見極め、ブローカーが仲介の役割を担っている。

V.グローバルな保険業の状況
グローバルな保険業の競争環境の変化の中で、ロンドンマーケットの競争力が徐々に低下していると言われている。ロンドンマーケットは新興国において強いポジションを築けておらず、再保険においては新たなハブが台頭しシェアを奪われつつある。

W.ロンドンマーケットの地位を維持する取組み
ロンドンマーケットの地位を支える主要な要素はアンダーライターやブローカーなどの専門性であり、これを強化していくこと、保険流通のネットワークを強化すること、オペレーションの効率性を高めてコストを削減することが求められている。特に効率性の向上については喫緊の課題となっている。

X.まとめ
グローバルな保険業の環境が変化していく中で、長年国際的な特殊なリスクの保険引受けの中心として特別な地位を築いてきたロンドンマーケットも対応を求められ、オペレーション全体の効率を見直す動きが広がっている。ロンドンマーケット全体の改革は、関係者が多岐多様であるがために難しい取り組みであり、今後の進展を見守りたい。

   
 

英国で取組みが進む社会的処方 (PDF0.8MB)

   
 

= 要 約 =
執筆者: 副主任研究員 高守 徹

   
 

T.はじめに
英国では、患者の健康やウェルビーイングの向上などを目的に、医学的処方に加えて、患者を地域の活動やサービス等につなげる社会的処方(social prescribing)と呼ばれる取組みを行うかかりつけ医が増えてきている。本稿では、英国で普及が進む社会的処方とはどのようなものか事例を含めて概観する。

U.英国の医療保障制度の概要
英国の医療保障制度の特徴の一つが、かかりつけ医としてのGP(General Practitioner:一般家庭医)の存在である。また、GP を構成員とする地域団体のCCGs(Clinical commissioning groups)は、予算の管理や病院に医療サービスを委託するなどの役割を担い、地域医療を運営している。

V.社会的処方について
地域により様々な社会的処方のスキームが存在するが、多くの場合、リンクワーカー(Link Worker)と呼ばれる人材が介在する。GP が必要に応じて患者をリンクワーカーに紹介し、リンクワーカーが当該患者に地域の活動やサービスを紹介する。GP の4 人に1 人が社会的処方を一般的に行っているとされる。

W.社会的処方の事例
主として社会的孤立に対して、ボランティアを活用して取り組む社会的処方と、特定の慢性的な症状を抱える人々を対象に、ソーシャル・インパクト・ボンドのスキームを活用して取り組む社会的処方プロジェクトの2 つの事例を取り上げてその取組み内容を概観する。

X.おわりに
社会的処方について、人々が抱える社会的課題を解決する手段の1 つとしてみた場合、その仕組が注目される。社会的課題を解決するためには、地域の事情および地域資源の情報に通ずるリンクワーカーのような存在が不可欠であると思われる。

   
 

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